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  • TAKE ACTION in 甲府における活動収支報告

NEWS & TOPICS:最新情報

南アフリカ サッカーボール配布プロジェクト実施報告

一般財団法人TAKE ACTION FOUNDATION(代表理事:中田英寿)は、去る4月12日に開催した「TAKE ACTION in 甲府」の主催団体である社団法人山梨県サッカー協会より、活動収益の中から¥15,850,000を社会貢献プログラムの実施費用として、日本ユニセフ協会及びTAKE ACTION FOUNDATIONへ寄付いただき、6月27日より南アフリカへの「サッカーボール配布プロジェクト」をスタートいたしました。<収支報告についてはこちから>

今後、本プロジェクトでは"20,000個"のサッカーボールを9月末までに南アフリカ国内585の対象校に配布を予定しております。進捗報告は随時当ウェブサイトにて報告いたします。


特別寄稿 「ボールの力」

text by Kosuke Kawakami

「サッカーにはすごく大きな力、可能性があるんです」
 中田英寿がよく語る言葉だ。しかしその力を、可能性をこれほどまでに見せつけられることはなかった。その日、ヨハネスブルグの小学校には、そのサッカーの持つ力、可能性がひとつのカタチとなっていた。年齢も、性別も、国籍も、言語も、肌の色も関係ない。真っ青な空の下、そこにいる子供たちの誰もが笑顔にあふれていた。その足元には真新しいサッカーボール。「TAKE ACTION」によせられた、ひとりひとりの気持ちが込められたサッカーボールが、子供たちに笑顔をプレゼントしたのだ。

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 4月に行われた「TAKE ACTION in 甲府」は、エキシビジョンマッチに16,120人の観客を集めるなど、イベントとして大きな成功を収めた。「TAKE ACTION FOUNDATION」(代表理事・中田英寿)は、この収益の一部を当初の目的通り、世界の恵まれない地域の子供たちへのサッカーボール配布に充て、南アフリカ共和国に20,000個の寄贈を決定。今回、そのプレゼンターとして、中田とエキシビジョンマッチにも参加した北澤豪がヨハネスブルグに渡航した。

 最初のボールの寄贈先が南アフリカに決まったのには、もちろん理由がある。来年行われるワールド杯の会場であること、失業率が高く、貧富の差が激しいこと、教育不足からくるHIVなど感染症の罹患率が高いこと......。そしてこの国にかつて悪名高き人種差別政策「アパルトヘイト」が存在し、いまだその"後遺症"に苦しんでいるということ。凶悪犯罪率が世界最高レベルのこの国こそが、「TAKE ACTION」の思いを届けるのに、一番相応しかったのだ。

 ボールの寄贈が行われたのは6月27日。折しもヨハネスブルグで行われているコンフェデレーションズカップの真っ只中。会場となった東オブザーベトリー小学校は、黒人が暮らす貧民街と白人が暮らす裕福な地域のちょうど中間地点にあり、子供たちの肌の色もさまざまだ。さらに今回は中田のたっての希望もあり、ヨハネスブルグの日本人小学校の生徒も招待。現地80名、日本人36名という大人数が集まった。

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 当日は現地NGOが開催するサッカー・クリニックも開催。これは南アフリカ全土で行われているサッカーを通して子供たちの教育を行うプログラムで、TAKE ACTIONの趣旨とも重なる部分が多いイベントだ。TAKE ACTION、unicefなどのロゴが入った真っ白いボールがコンテナからおろされると、子供たちの顔に笑顔が広がる。その数100個以上。ゴム製の決してぜいたくなボールではない。でも誰もあぶれない。誰もがボールに触れ、楽しめるのに十分な数だ。日本人の子供たちから、南アフリカの子供たちにボールが渡されると、ソワソワ、ウズウズ、早く蹴りたくて仕方がない様子だ。

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 クリニックが始まると、小さい子供も大きい子供も、男の子も女の子も、楽しそうにボールと戯れている。あくまでもクリニックなので、敵味方に分かれることも、点数を競うこともしない。基本的なドリブルやヘディングの練習など、内容的には地味な部類の練習ばかり。それでも子供たちには関係なかった。たくさんのボールがあることが、ボールを蹴ることが幸せなのだ。
 自然と声をかけあい、ボールを回しあう子供たち。もうそこに国境も肌の色も関係ない。かつてこの国にアパルトヘイトを生み出した"大人"は、この光景に何を感じるのだろうか。

 中田は言う。「ボールを通して、エデュケーション(教育)やコミュニケーションが生まれていく。これがTAKE  ACTIONが目指した姿です。これまで世界を見てきたなかで、夢中になれるものがない子供たちが犯罪に手を染めていくことを知りました。でもこうしてボールがひとつあるだけで、彼らはサッカーという楽しみを見つけ、他者とも交流することができる。それが犯罪率を下げたり、感染症の拡大を防ぐことにもつながっていくんです」
 北澤もTAKE ACTIONの意義を実感したようだ。「甲府でやったことが南アフリカに届き、いろんな人の思いが繋がった気がします。こうしてひとつのカタチにしたことで、次のステップが見えてきた。改めて、単に競技としてだけでないサッカーの力を感じることができました」

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 中田や北澤は子供たちのなかに入り、声をかけ、ボールに触れ、一緒になって楽しんでいた。しかし子供たちは、そんなスタープレイヤーの登場もそっちのけ。ボールが来れば駆け出し、走りまわる。その素直さが微笑ましい。彼らにとって、今日の主役はあくまでもボールなのだ。中田も北澤もむしろそれを喜んでいるようだった。

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 あっという間の2時間。気がつくと、真っ白だったボールが茶色く土色に染まっていた。子供たちの顔やユニフォームも埃にまみれている。しかしその笑顔は色あせない。疲れもまったくないようだ。どの顔もキラキラと輝きを放っていた。

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「ワールド杯が行われると、そのためのインフラの整備や経済効果が大きな話題になるけど、サッカーが持つ可能性はそれだけではない。子供たちの夢や希望といった目に見えないインフラも作ることができるんです。それは大人も同じだと思います。単に試合を楽しむだけでなく、そこからもう一歩踏み出して、それを通して『自分に何かできることはないか』と考えてみたら、勝ち負けを超えたものが待っていると思う。
 今回の経験は、僕にとっても大きいものになりました。unicef、日本大使館、現地NGOや小学校、さまざまな人たちの協力もありましたが、何よりも子供たちからTAKE ACTIONを続けていくための活力をもらったように感じます」

 中田はTAKE ACTIONについて、「チャリティではない」と言い続けている。しかしこの活動がもたらす効果は、もしかしたら従来のチャリティを超えるものになるかもしれない。なぜなら今を救うだけでなく、そこには未来があるから。クリニックを見ていた北澤が驚いたように語っていた。「ひとり、とんでもない動きするヤツがいるんだよ!」。10年後、このボールから夢をスタートさせた子供のなかから、スタープレイヤーが生まれる可能性も大いにあるのだ。

2009年6月30日